STO(セキュリティ・トークン・オファリング)の課題 |<br> 基礎から導入事例まで解説 ~課題編~
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STO(セキュリティ・トークン・オファリング)の課題 |
基礎から導入事例まで解説 ~課題編~

1. STO(セキュリティ・トークン・オファリング)の課題

基礎から導入事例まで解説 ~課題編~

第3回のテーマは「STO(セキュリティ・トークン・オファリング)の課題」です。
 
前回までの記事
第1回 STO(セキュリティ・トークン・オファリング)とは?
基礎から導入事例まで解説 〜基礎編〜


第2回 STO(セキュリティ・トークン・オファリング)とは?
基礎から導入事例まで解説 〜導入事例編〜


これまで基礎から導入事例の紹介を通じて、STOの可能性について言及してきましたが、その実用化に向けては、いくつかの克服すべき課題があります。

本記事では、サイバー犯罪の脅威と金商法改正に伴うリスクの2点にしぼって説明していきたいと思います。

 

1−1. サイバー犯罪の脅威

⑴ サイバー犯罪の日常化

スマートフォンやインターネット等のコンピューター技術及び電気通信技術が生活インフラとして必需化した現代、それらを悪用したサイバー犯罪が多発しています。

サイバー犯罪とは、「コンピュータ、コンピューター・ネットワーク、或いは電磁的記録(コンピュータで処理可能なデータ)に対する犯罪の総称」です。

詳細が気になる方は、以下の資料をご参照ください。
参考資料:清水智(2018)「正しいサイバー犯罪事件の解決と官民協働」
https://www.antiphishing.jp/news/pdf/apcseminar2018CIKF.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

2019年3月、警視庁が発表した『平成30年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』には、サイバー犯罪の検挙数は過去最多の9,040件、そして相談件数は126,815件と報告されています。

その中で、仮想通貨交換業者を狙った不正アクセス等の事件は169件で、被害額は日本円に換算すると約677.4億円となっています。
なお、警視庁が24時間体制で運用する「リアルタイム検知ネットワークシステム」のセンサーには、仮想通貨等を標的としたアクセスが年間を通して観測されていたとのことです。

Iot(モノのインターネット)の進展やVR等の仮想現実の拡がりを鑑みると、サイバー空間はより一層、人々の生活から切り離せない技術として日常化していきます。

それは同時に、サイバー犯罪の被害が深刻化する時代、悪質なハッキングが市場経済を混乱に陥れる大きな脅威となる時代の到来を意味しているのです。

参考資料:警視庁『平成30年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/H30_cyber_jousei.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

 

⑵ 仮想通貨取扱業者を狙った不正アクセス事件

ここ最近でも、株式会社ビットポイントジャパンが運営する仮想通貨取引所「BITPoint」を狙った仮想通貨の流出事件が発生しました。
被害額は約30.2億円と報道されています。

昨年、仮想通貨バブルの熱狂に冷や水を浴びせたコインチェック事件を含めると日本国内のハッキングによる盗難事件は、私の知る限りで4件目となります。

その他の不正アクセスによる盗難事件


こうした盗難事件が発生すると、「やっぱり、仮想通貨は危ない」といった不信感を持たれる方がいるかもしれません。
ただ、セキュリティの脆弱性は克服すべき課題であって、仮想通貨及びブロックチェーンそれ自体を否定するものではありません。
ICO詐欺を含めてネガティブな心象を帯びてスタートした業界だからこそ、漠然とした疑念から評価を下すのではなく、正確な情報を精査して、その有用性を議論する機会を作り出す必要があります。
でなければ、新技術が生み出すグローバル経済の変動に取り残されてしまうでしょう。

加えて、ハッキングによる盗難は、企業経営にも致命的な損害を与えることになります。
具体的に言えば、今回の事件後、株式会社ビットポイントの親会社リミックスポイント(東証二部上場)の株価は、年初来高値の半分まで落ち込んでいます。
これは事業継続を脅かす恐るべきリスクです。

セキュリティに何らかの問題があったとしても、被害者側の事件収束に要する経済的負担は大きく、善良な事業者が悪質なハッカーに駆逐されてしまえば、日本国内の暗号資産業界そのものが衰退する恐れがあります。
その意味では、サイバー犯罪は経済的な攻撃に限らず、国内市場の情報認識や成長可能性においても甚大な悪影響を及ぼしているのです。

 

⑶ セキュリティ・トークンも例外ではない

セキュリティ・トークンもまたインターネットを介して管理される場合、仮想通貨と同様のリスクを持っています。
残念ながら、セキュリティ・ハッカーは世界の至る所に存在するので、国内法の厳罰化などで抑制しきれるものではありません。

したがって、クラッキング対策は、専門家による技術的対策と民間企業によるセキュリティ防護のサービスが主要になると思います。
前者について、株式会社スタンダード・キャピタルが「新型通貨の適正を考える議員連盟」で発表した『STOシステムの課題と具体的解決策について』の中で、以下のアイディアを提示しています。

① 投資家がブロックチェーン上で独自のアカウントを持つ
② 身元確認とブロックチェーン上での分権を前提とした組織分けが可能なシステム設計
③ 法的措置や資産の回復のために強制的な取引の取り消し、チャージバック可能なSTOシステム

参考資料:柳谷 昂希(2019)「STOシステムの課題と具体的解決策について」
https://standardcapital.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/756085f6a3aeba834660bef84b1f0710.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

また後者に関しては、本来であれば、利用者自身がリテラシー向上に努めて、ネット環境の利用に応じた危機管理能力を習得することが理想ですが、生活習慣を変えるハードルは高いです。

というのも、人間には「正常性バイアス」が働きやすいからです。
正常性バイアスとは、簡単に言えば「自分に都合の悪い情報を無視する」といった認知に関する偏見です。例えば、ECサイトでショッピングをする際に、パスワードを設定することがあります。

その際に、「パスワードは出来るだけ複雑にした方が良い」と知っていても、「まぁ大丈夫だろう」、「自分に限って被害に合うことはない」と「自分の誕生日や名前の頭文字」などの外部から取得しやすい情報を使う油断や慢心が「正常性バイアス」です。

これを解決するには、当該課題に対する主体的な危機意識が不可欠になりますが、それを全員に求めることは必要であったとしても、現実的ではありません。

それよりもセキュリティ防護サービスを提供する民間企業を支援する方が有益であると思います。

国もまた「情報処理安全確保支援士」など公的な次元でサイバー犯罪に対処する人材の育成を目指しており、事業者を含む利用者保護の観点から官民産学の全方位的なサイバー犯罪の対策環境を具体的に整備することが求められています。

参考資料:情報処理推進機構「情報処理安全確保支援士」
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/sc.html(最終確認日:2019/07/12)

 

1−2. 金商法改正に伴うリスク

⑴ 電子記録移転権利は原則「第一項有価証券」扱いとなる

2019年3月に金融庁が提出した金融商品取引法等の改正案では、「電子記録移転権利」という概念が新たに設置されました。「電子記録移転権利」とは、以下の条文に定められる下線部の要件を満たすものをいいます。

【電子記録移転権利に関する条文(改正金商法第2条第3項からの抜粋)】
この法律において、「有価証券の募集」とは、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘(これに類するものとして内閣府令で定めるもの(次項において「取得勧誘類似行為」という。)を含む。以下「取得勧誘」という。)のうち、当該取得勧誘が第一項各号に掲げる有価証券又は前項の規定により有価証券とみなされる有価証券表示権利、特定電子記録債権若しくは同項各号に掲げる権利(電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)に限る。以下「電子記録移転権利」という。)(次項及び第六項、第二条の三第四項及び第五項並びに第二十三条の十三第四項において「第一項有価証券」という。)に係るものである場合にあつては第一号及び第二号に掲げる場合、当該取得勧誘が前項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(電子記録移転権利を除く。次項、第二条の三第四項及び第五項並びに第二十三条の十三第四項において「第二項有価証券」という。)に係るものである場合にあつては第三号に掲げる場合に該当するものをいい、「有価証券の私募」とは、取得勧誘であつて有価証券の募集に該当しないものをいう。

(電子記録移転権利の要件)
① 第一項各号に掲げる有価証券又は前項の規定により有価証券とみなされる有価証券表示権利、特定電子記録債権若しくは同項各号に掲げる権利
② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値
③ 電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る

参考資料:情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律に関する新旧対照表
https://www.fsa.go.jp/common/diet/198/02/shinkyuu.pdf
(最終確認:2019/7/12)

特に、STOの文脈で変化があるポイントとしては、現行法で「第二項有価証券」扱いのものが、セキュリティ・トークンとしてデジタル・アセット化され、②及び③の要件が満たされた場合は、「電子記録移転権利」に位置付けられます。

改正法案では、「電子記録移転権利」は原則「第一項有価証券」とみなされるため、「第二項有価証券」の権利がセキュリティ・トークンで表示されることで、第一項有価証券としての規制(たとえば開示規制)を満たす必要があります。

これにより、「電子記録移転権利」を表示するセキュリティ・トークンの売買、仲介、募集等は「第一種金融商品取引業」となり、事業者は第一種金融商品取引業者のライセンスを取得しなければなりません。

なお、今回の法改正に関する詳細に関しては以下の資料をご参照ください。

参考文献:アンダーソン・毛利・友常法律事務所(2019)『FINANCIAL SERVICE & TRANSACTION GROUP NEWSLETTER』の『暗号資産に関する改正資金決済法等について』(2019年4月)
https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins2_pdf/190409.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

参考文献:西村あさひ法律事務所 金融ニューズレター「2019年資金決済法等改正案の概要:暗号資産・電子記録移転権利、金融機関による情報・データの利活用、一括清算法改正等」
https://innovationlaw.jp/wp/wp-content/uploads/2019/04/Crypto_Reg_Amendment_190409.pdf
(最終確認日:2019/7/12)

参考文献:SO&SATOINNOVATIVE LAWER『暗号資産規制の2019年改正について』
https://innovationlaw.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/暗号資産規制の2019年改正_SS_190318-1.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

 

⑵ 内閣府令の適用除外に関する課題

また、改正法案には、「流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合は除く」といった適用除外に関する事項が記載されています。この点に関しては、まだ明確な情報はありませんが、一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)の『新しいICO規制について提言』(2019年3月)に記述される「提言A」が何らかの形で反映されることが今後の課題になると思います。

セキュリティ・トークンは法律による安全性に優位があるので、今回の法改正が過大な障壁とは必ずしも言えません。ですが、技術の活用幅が広いことを考慮すると、内閣府令の適用除外によって柔軟性を補完することが大切です。
でなければ、各種規制が国内STO業界の発展を阻害する恐れがあります。新規事業の創出を準備する事業者を念頭に置くと、速やかに適用除外の詳細を決定することが求められています。

図1 一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)『新しいICO規制について提言』からの抜粋


引用:一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)『新しいICO規制について提言』(2019年3月19日)
https://cryptocurrency-association.org/cms2017/wp-content/uploads/2019/03/JCBA_ICO_20190319_1.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)
 
図2 第一項有価証券及び第二項有価証券と電子記録移転権利の関係


 

総括

以上、STOの課題としてサイバー犯罪の脅威と金商法改正に伴うリスクについて概説しました。とりわけ、今回の法改正によって、STOが実務的に使いづらい仕組みとなれば、日本の起業家と投資家は海外プラットフォームに流入するかもしれません。

前回の記事でも紹介したように、STOの成功事例で知られる各種企業は、グローバルな規模で資金を調達しています。勿論、各国においても法的な制約はありますが、起業家が登記を含めて国を選択することは容易なことです。
今後、アメリカ企業を中心とするSTOのグローバル・エコシステムが展開されることを考えると、国内の事業者を先んじて育てることが新しい経済の激流を好機に転じる要となると思います。

 

参考資料一覧

参考資料:清水智(2018)「正しいサイバー犯罪事件の解決と官民協働」
https://www.antiphishing.jp/news/pdf/apcseminar2018CIKF.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

参考資料:警視庁『平成30年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/H30_cyber_jousei.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

参考資料:柳谷 昂希(2019)「STOシステムの課題と具体的解決策について」
https://standardcapital.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/756085f6a3aeba834660bef84b1f0710.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

参考資料:情報処理推進機構「情報処理安全確保支援士」
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/sc.html
(最終確認日:2019/07/12)

参考文献:アンダーソン・毛利・友常法律事務所(2019)『FINANCIAL SERVICE & TRANSACTION GROUP NEWSLETTER』の『暗号資産に関する改正資金決済法等について』(2019年4月)
https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins2_pdf/190409.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

参考文献:西村あさひ法律事務所 金融ニューズレター「2019年資金決済法等改正案の概要:暗号資産・電子記録移転権利、金融機関による情報・データの利活用、一括清算法改正等」
https://innovationlaw.jp/wp/wp-content/uploads/2019/04/Crypto_Reg_Amendment_190409.pdf
(最終確認日:2019/7/12)

参考文献:SO&SATOINNOVATIVE LAWER『暗号資産規制の2019年改正について』
https://innovationlaw.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/暗号資産規制の2019年改正_SS_190318-1.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

引用:一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)『新しいICO規制について提言』
https://cryptocurrency-association.org/cms2017/wp-content/uploads/2019/03/JCBA_ICO_20190319_1.pdf
(最終確認日:2019年7月12日)

 

著者プロフィール

森本 恭平
1990年生まれ。北海道出身。東北大学法学研究科を修了し、公共法政策修士を取得。
東日本国際大学・福島復興創世研究所の准教授を経て、現在は執筆活動及び金融関連の仕事に携わる。
専門はレジリエンスの社会政策論・社会思想論。その他福島県総合計画審議委員会審議員を歴任。


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