STO(セキュリティ・トークン・オファリング)とは? 基礎から導入事例まで解説 <br>〜導入事例編〜
STOについて

STO(セキュリティ・トークン・オファリング)とは? 基礎から導入事例まで解説 
〜導入事例編〜

STO(セキュリティ・トークン・オファリング)とは?
基礎から導入事例まで解説 〜導入事例編〜

前回はSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)の基本概念について記述しました。
 
前回の記事
STO(セキュリティ・トークン・オファリング)とは? 基礎から導入事例まで解説 〜基礎編〜
 
第二弾は、STO業界の全体像と導入事例を御紹介したいと思います。
 
実際に、STOで資金調達した企業はどのようなプロジェクトを実行しているのでしょうか?
本記事がSTOの活用を検討される方々の一助になれば幸いです。
 

1. セキュリティ・トークンが導入される業界とは

ICOに代わる新たな資金調達、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)。
その核となるセキュリティ・トークンは、どのような業界から構成されているのでしょうか。
 
導入事例の紹介に入る前に、仮想通貨・ブロックチェーン特化型のニュースサイトとして著名な「The Block」が公開する「Security Token Ecosystem」を用いて、セキュリティ・トークンが導入されうる業界の全体像を概観してみましょう。
 
図1 セキュリティ・トークンのエコシステム

 
引用元:https://www.theblockcrypto.com/2018/11/15/mapping-out-the-security-token-ecosystem/(最終確認日:6月10日)
 
 

【業界1】 カストディ & トラスト

 
第一の業界は「カストディ&トラスト(信託)」です。
「カストディ」とは、顧客を代理して証券の保管、売買に関する決済、または配当金の受領等に関するサービスの総称です。
 
一般的に、こうした業務を提供する個人或いは機関は「カストディアン」と呼ばれています。
ヘッジファンドやベンチャーキャピタル等が他人の資産を運用する場合、その安全管理を徹底しなければなりません。
 
しかし、上記の業務を全て自前で揃えることはコスト的にも非効率にならざるを得ません。
そこで、各業務を代行する「カストディアン」が成立するわけです。
また「トラスト(信託)」とは、信頼できる第三者機関に財産の管理を委託することを言います。
所謂、銀行預金です。
 
仮想通貨やセキュリティ・トークンの「カストディ&トラスト(信託)」には、 従来の信用システムに加えてブロックチェーン等の技術的専門性が求められるため、新規事業領域として多くのスタートアップが誕生しています。
最近では、韓国最大の民間銀行「国民銀行」がブロックチェーンのスタートアップ企業と協力してデジタル資産のカストディ業務への参入準備を進めていることが話題となりました。
 
 

【業界2】 イシュアンス

 
第二の業界は「イシュアンス」です。
 
これは、セキュリティ・トークンの発行に関する領域になります。
2018年時点では、イシュアンス業界の根幹技術としてイーサリアムの「ERC-20」が多用されていますが、Polymath Networkが開発した「ST-20」のシェアも拡大しつつあります。
 
その理由の一つとして、「ST-20」には送金制限の技術が組み込まれているため、コンプライアンスの条件をクリアしやすいことが挙げられます。
 
STOのトークン技術は法律の規制内容に準ずることが第一要件です。
それゆえ、長い目で 見れば、自由度の高いイーサリアムの仕様を拡張した「ST-20」に軍配が上がるかも しれません。
 
 
図2 STOのトークン基準に関するシェア
 

 
引用:INWARAのレポート
https://drive.google.com/file/d/1Qbn5hz00x7sP8afnBPZ3SHw2HmjmgwMB/view?fbclid=IwAR3L8KVLhSYHtreOHV3zQSHxdftV-pZXX9BSRTY1wL9zYvlJ_-0LLoj-UzI(2019年6月15日最終確認)
 

【業界3】 ブローカー&ディーラー

 
第三の業界は「ブローカー&ディーラー」です。
 
「ブローカー」とは、証券の売買取引を仲介する主体を指しています。
売り手と買い手に適切な情報を提供して、両者を結びつけることで仲介手数料を取得するビジネスです。
 
続いて「ディーラー」とは、企業や個人が保有する資金を投資によって運用する主体のことです。
発行者の査定、事業の成長可能性、或いは相場分析を通じて安定した利率で取引することが求められます。
 
蛇足ですが、スタートアップ企業が発行するセキュリティ・トークンの相場は、ボラリティ(値動き)が大きくなることが予測されるので、証券ディーラーにとって大きなチャンスと言えます。
今後、優位性が高い取引のロジックをプログラムしたシステム・トレードの発掘や裁量取引に長けたトレーダーの獲得競争が発生するかもしれません。
 
 

【業界4】 リーガル

 
第四の業界は「リーガル」です。
STOが法律に準拠して実行されるには、専門性を有した弁護士の支援が不可欠になります。
特に、各国の法律改正に伴う規制領域の変更は事業それ自体に大きな影響を及ぼしかねません。
 
国内でも、アンダーソン・毛利・ 友常法律事務所をはじめセキュリティ・トークンの法的な位置付けや管理に関するレポートを公開する弁護士事務所も増加しつつあります。
 
参考資料:アンダーソン・毛利・友常法律事務所「暗号資産に関する改正資金決済法等について」
https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins2_pdf/190409.pdf (最終確認6月15日)
 
 

【業界5】 トレーディング

 
第五の業界は「トレーディング」です。
 
これはセキュリティ・トークンの二次流通を指しています。
 
従来で言えば、証券取引所のようなプラットフォームで一元的に売買取引を行いますが、コインチェック事件で示されたように、中央管理体制に伴うセキュリティの脆弱性を狙ったデジタル資産の流出は、STO市場を脅かす大きなリスクです。
 
そこで、解決策として期待が高まっているのは、DEX(Decentralized Exchange)です。
これは「分散型取引所」と訳され、売り手と買い手のシークレット・キーとアドレスを使用して直接的にトレードする新しいシステムになります。
これによりハッキング・リスクが低減され、価格変動の透明性が確保されると、既存のトレーダーたちが一気にDEXに流れ込む可能性があります。
 
 

【業界6】 コンプライアンス

 
第六の業界は「コンプライアンス」です。
 
STOが各国の法律に依拠して運営される以上、厳格なコンプライアンスの要求をクリアしなければなりません。
 
例えば、KYC(Know Your Customer)、日本語では「本人確認義務」と訳されます。
セキュリティ・トークンが「証券」である以上、発行者や取引所は投資家の身分、購入資格要件の該当等の本人情報を確認する必要があります。
 
また、投資家の資金洗浄に関する リスク管理「AML(Anti Money laundering)」の対策も義務付けられると考えられます。
これらの項目は既存の証券会社が遵守するコンプライアンスと重複しており、スマート・コントラクトによって急速に効率化すると見込まれています。
 
 

2. STO(セキュリティ・トークン・オファリング)で資金調達した企業事例4選

 
イギリスに拠点を置くICO、STO、ブロックチェーンのスタートアップ、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)に関する情報プラットホーム「INWARA」の『Monthly Report May 2019』を見ると、STOを含むブロックチェーンやクリプト・プロジェクトの資金調達を進める国のトップとしてアメリカと中国が双璧を成しています。
 
2019年現在、国内でも複数のベンチャー企業が業界に参入していますが、法制上、STOの本格化は2020年の法律施行日以降になるでしょう。
 
ここでは来たる日本のSTO時代に向けて、世界各国でSTOを達成した企業の実例をいくつか紹介したいと思います。
 
図3 仮想通貨やブロックチェーンによる資金調達が進んでいる国トップ5

参考資料:INWARA Monthly Report May 2019 https://drive.google.com/file/d/1SHSPsP01x-S15VUVVzmg9WLqBGk9-vZZ/view(最終確認:2019年6月15日)
 

【事例1】tZERO/アメリカ

 

 

tZERO公式ホームページ https://www.tzero.com


 
ご存知の方もいると思いますが、tZEROはアメリカの大手EコマースOverstock社の子会社で、セキュリティ・トークンを含むデジタル資産と従来の金融資産を取引するセカンダリー・マーケットのプラットフォームを提供しています。
 
業界としては トレーディングに分類されます。
このプラットフォームには、ブロックチェーンを活用して市場間で異なる価格の最適化を図る技術が実装されており、すでにアメリカ特許商標庁から特許を取得することに成功しています。
繰り返しになりますが、この技術が普及すれば、グローバルな次元で公正な取引が瞬時に成立します。
 
したがって、世界中のトレーダーたちが参入し始めるかもしれません。
その市場規模を考慮すると、莫大な資産が流れ込むことが予想されます。
トレーディング業界の先駆を切ったtZEROは、STOによって2018年8月までに1000人以上の投資家から約134億円を集めることに成功しました。
 
tZEROの投資家たちは世界各国にいると言われており、ボーダレスな資金調達の可能性を示した有力な事例です。
 
 

【事例2】Polymath NETWORK/アメリカ


POLYMATH公式ホームページ https://polymath.network


 
Polymath NETWORKはイーサリアムのトークン仕様を拡張した「ST-20」に基づく、セキュリティ・トークン発行用のプラットフォームを提供しています。
 
所謂、イシュアンス業界です。
そのプラットフォームでは、法定代理人による書類作成や開発者の調達等、トークンの発行業務をワン・ストップで実行できます。
さらに、AMLとしてトークン送信に厳格なルールが敷かれているため、コンプライアンスにも対応可能です。
 
Polymath NETWORKは独自トークン「Poly」発行によるSTOを実施して、全てのトークンの販売を完了しました。
一次情報に裏付けられる調達金額は不明ですが、2019年6月15日時点の「Poly/USD」の相場を見ると、ピーク時よりも大幅に値を下げています。
 
STOが投機目的として機能する以上、トークンの値動きが事業継続の脅威とならないように注意が必要です。
 
 

【事例3】Elevated Returns/アメリカ

 
 

 
 

公式ホームページ https://aspencoin.io


 

Elevated Returnsは、クラウドファンデイングのウェブサイトで知られる「INDIEGOGO」のプラットフォームを使用して「Aspen Coin」というセキュリティ・トークンを販売し、2018年10月までに約20億円の資金調達を完了しました。
 
Aspen Coinの裏付けとなったのは、アメリカ・コロラド州にある「セント・レジス・アスペン・リゾート」という高級リゾートの所有権です。
具体的には、「セント・レジス・アスペン・リゾート」の資産価値18.9%を担保に1,800万トークンを発行し、1トークン当たり1ドル (最低購入単位は10,000トークン)で販売されました。
 
Aspen Coinのプロジェクトは、不動産を証券化したSTOの先進的な事例です。
前回の記事でも触れましたが、不動産など現物資産のセキュリティ・トークン化は革命的な出来事です。
 
従来のキャピタル・ゲインやインカム・ゲインとは異なる新たな資産形成の手段として不動産業界、そして所有者に大きなビジネスチャンスを生み出すことになると思います。
関連資料 https://aspencoin.io/FAQ/AspenCoin-FAQ.pdf

 
 

【事例4】LEVIAS Inc./日本

 
 

 
 

公式ホームページ:https://jsto.io/news/ja/complete-the-funding/


 
ブロックチェーン技術に基づく世界的なイノベーションを目指すLEVIAS Inc.は、STOを通じて起業家を支援する総合的ソリューションの構築と展開(LEVIAS – STO Solution)に取り組む日本のベンチャー企業です。
その第一歩として、2019年3月に 「J-STO」による資金調達を完了しました。
その額は公開されていないようですが、「J-STO」はLEVIAS Inc.独自のSTOスキームで、公式ホームページでは次のように説明されています。
 
J-STOとは、現行の日本法の枠組みの下で組成された事業型ファンド(集団投資スキーム)が行うSTOを意味する当社のブランド名(商標出願中)です。
 
事業型ファンドに対する出資者には、出資者の地位を表章するセキュリティトークンが付与されます。
 
集団投資スキームとは、複数の出資者から資金を集めて投資を行い、その収益を分配する仕組みです。
2020年に関連法の施行を控える中、LEVIAS Inc.は2019年を「日本におけるSTO元年」と位置付けて、現行法の枠組みで一早くSTOを形にした日本の先進事例と言えるでしょう。
 
 

著者プロフィール

森本 恭平
1990年生まれ。北海道出身。東北大学法学研究科を修了し、公共法政策修士を取得。
東日本国際大学・福島復興創世研究所の准教授を経て、現在は執筆活動及び金融関連の仕事に携わる。
専門はレジリエンスの社会政策論・社会思想論。その他福島県総合計画審議委員会審議員を歴任。


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